天童市出身で網走市の名誉市民となった中川イセさんについて、同郷の女優・夢実子さん(本名:今田由美子さん)が10年がかりで語り劇を完成させました。初演は8月26日に網走市で行われ、その後、県内での公演も企画されています。
困難な道を切り開き105年の人生を全力で生き抜いた天童市出身で北海道網走市名誉市民の中川イセさんを題材にした語り劇を、同郷の女優・夢実子さん(天童市、本名・今田由美子)が10年がかりで完成させた。初演は8月に網走市で披露され、その後、県内での公演を企画中。夢実子さんは「閉塞(へいそく)感が漂う現代社会の中で、イセさんの強い意志、行動力を多くの人に知ってほしい」と語る。
語り劇のタイトルは「零(ゼロ)に立つ〜激動の一世紀を生きた中川イセの物語」。イセさんは、生後間もなく里子に出され、未婚で娘を産み、北海道の遊郭へ身売りするなど、不遇な生活の連続だった。一方、戦時中には米軍が攻撃してくることを聞いて、裸で馬に乗って海岸を走り、米兵の注意を引こうとした逸話から「ジャンヌ・ダルク」とも呼ばれた強い女性だった。
夢実子さんは「マイナスばかりの人生だが、それをゼロに戻し、プラスに転じる力を持っていた。悲嘆に暮れず、自分の足で立ちあがる生きざまに感銘を受けた」と制作のきっかけを語る。夢実子さんは、西川町大井沢でへき地医療に生涯をささげた女医・志田周子(ちかこ)さんを題材にした一人芝居も15年近く続けている。
語り劇の台本は、網走市に実家がある横浜市の脚本家・甕岡(かめおか)裕美子さんと共同で取材に当った。夢実子さんは「網走でイセさんは“ばっちゃん”と呼ばれて親しまれ、取材の際は本当に多くの人が快く迎え入れてくれた」と振り返り、「天童であまり知られていないのが寂しい」と付け加えた。
網走公演後に本件での公演を支援する動きも出ている。人権擁護活動などに取り組む松村昌子さん(天童市)を代表に、天童公演に向けたプロジェクトチームが発足。松村さんは「イセさんは天童をずっと愛し、地元の小学校に寄付を続け、(松村さんの)実家のしょうゆ醸造所を度々訪れて愛用し続けてくれた」と述べ、「店を訪れた際の謙虚で凛(りん)とした姿が忘れられない」と話す。
初公演は8月26日に網走市で開催。その後の公演については支援を募りながら、県内、全国へ展開したい考え。問い合わせはオフィス夢実子023(658)7061。
中川イセ(本名=中川いせよ)1901(明治34)年〜2007年。干布村上荻野戸(現天童市)生まれ。17歳で娘を出産し、養育費を稼ぐため北海道の遊郭で働く。網走市の資産家と結婚し、戦後初の統一地方選で女性市議として当選。社会資本整備、人権擁護などで活躍し、網走監獄保存財団名誉理事長なども務めた。92年に網走市名誉市民。中川さんの縁で天童市と網走市が2004年に観光物産交流の協定を結んだ。
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