毎年8月3日・4日に開催される全国中学生選抜将棋選手権大会で、天童少年少女将棋教室に通っている中山中1年の渡辺東英(わたなべ はるひで)さんが山形県勢初の優勝を成し遂げました。
山形県勢初の優勝を成し遂げた渡辺東英さん(NHKニュースより)
将棋の中学生日本一を決める第37回全国中学生選抜将棋選手権大会(天童市、日本将棋連盟、天童青年会議所主催、山形新聞・山形放送など後援)は最終日の4日、天童市の滝の湯で男女の決勝と3位決定戦を行った。男子は本県代表で中山中1年の渡辺東英(はるひで)さんが優勝を果たした。県勢の優勝は男女を含めて初めて。
渡辺さんは決勝で、千葉県代表の伊藤誠悟さん(小中台2年)と対戦。終盤に追い込まれたが、相手が王手を逃す「王手放置」の反則で勝った。渡辺さんは「正直言って信じられない。ベスト8に入ってから気が楽になり自分のペースで打てるようになった」と話した。女子は東京都の宮沢沙希さん(広尾学園3年)が優勝した。
閉会式では、大会名誉総裁の三笠宮彬子さまから、渡辺さんに寛仁親王牌(はい)、宮沢さんに彬子女王牌が授与された。他の入賞者は次の通り。
男子 (3)稗田照太郎(福岡県・三筑2年)(4)吉永孝祐(東京都・狛江二3年)
女子 (2)野原未蘭(富山県・岩瀬1年)(3)礒谷真帆(千葉県・習志野一3年)(4)礒谷祐維(愛知県・中部大春日丘2年)
全国の強敵を相手に、予選から7選全勝。将棋の中学生日本一に輝いた。「目標は一応優勝にしていたけど、信じられない」。眼鏡の奥の細い眼をさらに細め照れ笑いした。
「自分で刺したい手を本番で指す」ことを胸に臨んだ。決勝トーナメント2回戦で二転三転する展開を制して波に乗った。決勝の相手は、先月の中学生将棋名人戦準決勝に続く再戦。リベンジを果たす絶好の機会だったが、すぐ隣の三笠宮彬子さまが目に入り「舞い上がった」。反則での勝利に「勝負には勝ったけど、まだまだ頑張らなきゃ」と課題が残った。
将棋との出会いは小学3年。「テレビゲームはさせたくない」という父の武弘さん(49)からマグネット式の将棋セットを買い与えられ、のめり込んだ。天童市の天童少年少女将棋教室に通い、県小学生将棋名人戦で3連覇を果たし頭角を現した。今はコンピューターでの研究に余念がない。
「夢はプロ棋士」と明快に答える。目標の棋士を聞くと、羽生善治3冠を挙げるが「神のような存在」。コンピューターで強くなった異色の棋士、千田翔太五段の「独自の路線を究めようとしている」ところに心引かれる。
プロへの登竜門「新進棋士奨励会」の入会試験が間近。今回の優勝で1次試験は免除になった。2度目の挑戦で今度こそ。この夏、夢が現実味を帯びてきた。中山町の自宅で、両親、姉と4人暮らし。
県勢が中学生日本一の座をゲット。本県将棋界に新たな歴史の一ページが刻まれた。渡辺東英さん本人を支えた家族、関係者からも歓喜の声が上がった。天童から悲願のプロ棋士誕生へ道が開けた。
三笠宮彬子さまが観戦される中の大一番。共に居飛車を得意とし角交換で始まった。渡辺さんが攻めあぐね、次第に相手のペースになった。大詰めに入り、渡辺さんが掛けた王手に相手が気付かない指してしまい、「王手放置」の反則でまさかの決着。相手のミスで勝利が転がり込んできた。
相手の伊藤さんとは先月、東京で行われた中学生将棋名人戦の準決勝で対戦し、負けている。リベンジを果たした形だが、渡辺さんは「本来なら詰まれていたので運が良かった。勝ち切ったとは言えない」と冷静に振り返る。
目指すはプロ棋士。今月16~18には登竜門である「新進棋士奨励会」の入会試験を控える。今回の優勝により1次試験は免除となり「去年落ちているから、こっちこそ雪辱したい。いい弾みにしたい」と前を見据えた。
観戦に訪れた父武弘さん(49)は「将棋は全く分からないけど、よくやった」と、祖母の一子さん(77)と一緒に目を細めた。一方で、寛仁親王牌を手にした息子に「これがゴールじゃないぞ。ここからだ」とエールを送っていた。
渡辺さんは天童市の天童少年少女将棋教室に所属し、将棋のまちにとっても朗報だ。運営数る日本将棋連盟天童支部の大泉義美会長は「本県将棋界の歴史を塗り替えた。若手への普及につながる。行政や団体の協力もあるけれど、何より本人の努力、家族の支えが素晴らしい結果を生んだ」とたたえた。
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