サッカーJ1・モンテディオ山形のホームスタジアムに近い天童市長岡地区で、長岡モンテディオサポーターズクラブが応援イベントを行いました。これは長岡モンテディオサポーターズクラブと天童市立長岡公民館が主催し、長岡地域社会福祉協議会が共催する形で行われたものです。
午後2時から公民館前でモンテディオ山形の必勝を祈願する神事を行ったあと、今季の活躍を祈念し、みんなでヤマガタディオ!コールと「何度も歌えるように!何度も歌いたい!」とスポーツ県民歌(モンテディオバージョン)を歌いました。その後、公民館内の多目的ホールに会場を移し、中井川茂敏(なかいがわ・しげとし)スポーツ山形21常務理事(兼)ゼネラルマネージャーが「チームづくり、人づくりと今シーズンの展望」と題して講演しました。
舞鶴山にある建勲神社の鎌倉宮司がご祈祷 |
神事に続いてヤマガタディオ!コール |
中井川茂敏GMがチームづくりについて講演 |
講演は、ゼネラルマネージャの仕事やモンテディオ山形の歴史を紹介するところから始まりました。NEC山形のサッカー同好会からスタートし、24年かかってJ1の大舞台まで辿り着いたことや、「みちのくダービー」の歴史がおよそ20年前までさかのぼることなどを紹介すると、参加者たちは「へぇ〜」という表情を浮かべていました。 |
- べにばな国体に向けて
- 小林伸二監督の就任
- チーム力強化のために
- 監督(リーダー)の条件
- チーム躍進のポイント(フェアプレイ精神)
- チーム躍進のポイント(規律の徹底)
- チームマネジメントと監督の仕事
- モンテディオ山形の「効能」
- 國母選手の服装問題
- まとめ(感想)
1.べにばな国体に向けて
平成4年度におこなわれた「べにばな国体」に先立ち、県内の企業には「協力のお願い」がありました。いくつか提示された種目のなかから1つを選び、その種目の強化策に取り組んでいただく「お願い」です。その甲斐あって、見事、山形県は総合成績(天皇杯)で優勝を果たしました。しかしながら、国体が終わると多くのチームが解散してしまいました。今でも活動を続けているのがバレーボール・V・プレミアリーグ女子の「パイオニアレッドウィングス」、山形銀行女子バスケットボール部「ライヤーズ」、そしてサッカーJ1の「モンテディオ山形」です。
モンテディオ山形にはチーム存続の危機が3回ぐらいありましたが、1回目はその「べにばな国体」の直後でした。「国体が終わったんだからチームも終わりでしょ」という意見が会社内にもありましたが、「このまま日本リーグ(JFL)を目指そう」と、活動を続けることになりました。その後、サッカー界にはプロ化の流れが出てきて、Jリーグ発足とともに企業チームの必要性が問われることになりました。これが2回目の危機です。NEC山形も国内のほかのチームと同じように株式会社化を目指しましたが、なかなか出資者が集まらず、苦肉の策で社団法人化にこぎつけました。しかし、これと引き換えにして、中井川GMはチームから離れることになりました。
2.小林伸二監督の就任
そして2007年、中井川GMはふたたびモンテディオ山形に加わることになります。「自分に遠慮していたのか、モンテディオ山形はまだJ2で活躍していた」ことから、J1を目指すチームづくりに励みました。GM就任は2007年10月でしたが、就任のお話があった7月ぐらいから、さっそく監督候補を10人ぐらいリストアップしました。その後、3人に候補を絞ったなかに、現在の小林伸二(こばやし・しんじ)監督がいました。
当時、小林監督はアビスパ福岡のGMをしていましたが、「あの人は3年契約してるみたいだからお願いしても無理だよ」といろんな人から言われたそうです。しかし、リトバルスキー監督との不仲が取りざたされていたため、「もしかするとチャンスがあるかも?」と思って準備を進めていました。そして、「小林GM解任」という新聞報道が出された数日後、電話で直接、監督就任のお願いをしました。
しかし、解任直後ということもあり、小林監督からは「全然考えられない」とお断りされてしまいます。その後、モンテディオ山形はアウェイでサガン鳥栖との対戦がありました。中井川GMはその際に小林監督と直接お会いして、改めて監督就任をお願いしました。しかし、生まれが長崎、大学が大阪、就職が広島ということもあってか「大阪よりも西に行ったことがない」「山形ってどんなところですか?」と、この時もまた就任を断られてしまいます。このとき、中井川GMは「もしよかったら山形の試合を見てくれ」とお願いしました。小林監督からは「見てみます」との返事はなかったものの、試合後に「山形のチーム、なかなかやるじゃないですか!」と小林監督から電話があったそうです。脈アリ!とみた中井川GMは、その後、積極的にアプローチして、監督就任にこぎつけました。
3.チーム力強化のために
経営学のマネジメントで使われる「PDCAサイクル」(Plan-Do-Check-Act)という用語がありますが、中井川GMのお話を聞いて、チームを強くするためにも同じような手法が使われていることが分かりました。
<強いチーム(負けないチーム)をつくるプロセス>
野球でもバレーボールでも、どんな競技でもそうだと思いますが、チームが強くないとなかなか観客(ファン)が増えません。勝つためにはいい選手を取ってこなければならないため、どうしてもお金が必要です。しかし、山形はご存知のとおりお金がありません。そのため、選手を自前で育てていく必要があります。のびしろのある新卒の選手や他のチームで出場機会に恵まれない若手選手を獲得し、チームのなかで育成していきます。
「着実なチーム・クラブ運営」を行うためには、「財政的成功」が必要です。そのためにはスポンサーを増やすことも必要ですが、J1でもJ2でも関係なく多くのファン・サポーターにスタジアムへ足を運んでもらえるように、「クラブ・チームとファンの強固な関係」を築く必要もあります。今シーズンはこの部分を強化するため、選手を各地のイベントに今まで以上に派遣することも考えているそうです。
強いチームになるためには、練習環境と優秀な指導スタッフが必要です。小林監督からは、就任前にモンテディオ山形の練習環境を尋ねられました。幸いにして、天童(山形県総合運動公園)には芝のグラウンドが何面かありますし、プールもクラブハウスもそばにあります。これが、監督就任を引き受けたポイントの1つだったようです。
4.監督(リーダー)の条件
先に挙げたとおり、小林伸二監督に就任を打診する直前まで、監督候補者が合計3名いました。監督になるにはS級ライセンスを取得する必要がありますが、現在、該当する人はおよそ300人ほどいるそうです。試験に合格するぐらいですので、知識や技量、戦術という点ではどなたも大差ないと中井川GMは判断しました。とすると、それ以外の部分で、山形の監督にふさわしいかどうかを判断することになります。
監督(リーダー)の要件として、中井川GMは以下の項目を挙げました。
- 信頼
- 人望
- 度量
- 威厳
- 判断力
- 決断力
- 表現力
ポイントの1つは経験値でした。これまでのモンテディオ山形の監督というと、山形で初めて監督になり、経験値を積んだあと別のチームで花開かせJ2からJ1に昇格させる、という方がいらっしゃいました。そこで今回は、他のチームで監督の経験があり、山形をJ2からJ1にあげられる力を持った人、ということで候補を選んでいきました。
5.チーム躍進のポイント(フェアプレイ精神)
小林監督が就任してからたった1年でモンテディオ山形がJ1昇格を成し遂げた背景として、中井川GMは「監督力+スタッフ力」と「選手の成長」を挙げています。
育成能力 | 選手ひとりひとりの能力を最大限に発揮させる |
人心掌握術 | 選手の心理、その場の空気を的確にとらえる |
マネジメント力 | PDCAを自然に回している |
意識改革 | 時間厳守、マナーの心、フェアプレイの精神、必要性の認識(練習、栄養等) |
質の向上 | 高いレベルでの競争が発生して、全体の質が向上する |
チームを強くするために、中井川GMと小林監督がそれまでのルールを変えたものがいくつか紹介されました。その1つがイエローカードの罰金制度です。それまではイエローカード1枚もらうたびに5,000円とか10,000円とかをチームに対して払うルールがありました。お二人はそれを無くす代わりに「防げるファールはしないでくれ」と強く言ったそうです。
フェアプレイの精神を徹底することで、2007年シーズンはファールが多いほうから数えて3つ目ぐらいだったのが、2008年シーズンは少ないほうから数えて3つ目ぐらい、そして2009年シーズンはフェアプレイ賞を受賞するまでになりました。いただいた賞金500万円はボーナスとして選手、スタッフで分けたそうです。「きちんとやったら評価する」「悪いことをしたらちゃんと罰する」ということが、マネージメントでは必要だと説いていました。これは管理職に求められる技量の1つだと思います。
6.チーム躍進のポイント(規律の徹底)
新幹線で移動した際、座席の前の網にゴミを入れたまま列車を降りた人がいました。後日のミーティングで「ごみは持ち帰ろう」ということを説明したそうです。ここで重要なのが、情報伝達だけではダメだということ。「なぜダメなのか」ということをきちんと教え、きちんと理解したかを確認することが必要だとおっしゃっいました。幸い、山形の選手はきちんと聞く耳をもっていて、それがチームの強さにつながっているとも解説していました。
「時間厳守」も徹底しています。これもただ「早く来い」「時間を守れ」ではなく、なぜ時間を守らなければならないのかを説明しました。それまでのモンテディオ山形では、午前10時から練習が始まるとすると、15分前までに集合していたそうです。それを、ケガしている人は1時間前まで集合するようにしました。それは、ケガしているところにテーピングを施すため、ケガを増やさないよう体を温める必要があるからです。「いい試合はいい練習から」「いい練習はいい準備から」と先に挙げましたが、行動すべてに一貫性があります。
また、「チームスピリット」として「J1」という目標を浸透させることに力を注ぎ、全力で戦うという意識を植え付けていきました。
7.チームマネジメントと監督の仕事
チームマネジメントでは
- 率先垂範(そっせんすいはん:人の嫌がることも自ら進んでやる)
- 信頼関係
- 規範の徹底(社会人としての規範、選手としての規範、フィールドでの規範)
また、監督(管理者)は次のことを意識する必要があると説きました。
- 監督(管理者)の仕事は「チーム(組織)づくり」「試合づくり」「人づくり」
- 選手(部下)を人間として成長させる
- 人間的成長なくして技術的進歩はない
- 人をつくるためには「ほめる」ことも大事だが「叱る」ことが基本
- 監督(管理者)は、ヒントを与え、選手(部下)が自分自身で気づくよう仕向けなければならない
- 部下(選手)育成の目的は、部下(選手)を自立させること
8.モンテディオ山形の「効能」
「着実なチーム・クラブ運営」のため、中井川GMはモンテディオ山形の魅力を高める必要性を説きました。「いい試合をつくる」ことが「いい商品」をつくることになります。そのためには、選手、観客が一緒になっていい雰囲気をつくっていくことが必要です。そこで、モンテディオ山形がもたらす経済的効果やイメージアップ効果などを広めていく必要があります。
J1であってもJ2であっても関係なく多くのファンやサポーターに支持されるような、多くのスポンサーからサポートしてもらえるようなチームにならなければなりません。そのためには「いい試合をする」必要があります。「いい試合をする」ためには「いい練習」と「いい準備」が必要なのはもちろんですが、選手と観客が一緒になって、いい雰囲気をつくっていくことも必要です。
<モンテディオ山形が地域にもたらす「効能」>
- 経済効果
- 交流人口の増加に伴い、宿泊、観光物産、飲食の購買増加
モンテディオ関連商品開発、販売
アウェーゲームへの観光ツアー増加 - 生きがいづくり
- 世代を超えたファンの増加、モンテディオを生きがいに
- コミュニティーの再生
- 地区単位のサポータークラブ結成(スタジアム周辺地区)
- 家族のコミュニケーションづくり
- 共通の話題での会話、応援
「経済効果」は、ハッキリ手に取るように分かります。昨年の浦和レッズとの対戦では、天童温泉や山形市内のホテルだけではなく、新庄や蔵王にも宿泊客があったそうです。J1チームがあるということが経済に与える影響は間違いありません。チームの目標として「J1定着」がありますが、ずうっとJ1で活躍を続けるためには、やはり15億〜20億円の予算がないと難しいのではないかと考えていらっしゃいました。
「生きがいづくり」の点では、介護疲れを癒すためにモンテディオ山形の観戦に訪れる方が多いそうです。2週間に一度、ホームの試合でおもいっきりリフレッシュすることで、家に戻ってからもがんばることができるそうです。
「コミュニティーの再生」という点では、長岡モンテディオ山形サポータークラブのように、、スタジアム周辺の地域で草の根グループ的な市民のサポート体制が整いました。中井川GMは「この流れを天童市全域に広げ、さらには東根市や山形市にまで広げていきたい」とおっしゃっていました。
そして「家族のコミュニケーションづくり」の点では、「70歳過ぎて、息子夫婦とハイタッチしている姿なんて到底考えられなかった」という方もいらっしゃるようです。
9.國母選手の服装問題
講演終了後には質問コーナーが設けられ、2人の方が中井川GMに質問しました。1人目は70代の男性で、オリンピックで勃発した國母選手の服装問題について触れました。男性は「とんでもないことだ」と思っていますが、50代の息子さんからは「最近の若いヤツはみんなあんな感じだ。いちいち言っても仕方がない」と返されたそうです。
中井川GMは
- 一時期、Jリーグでも個性が尊重された時代があったが、そういう選手は淘汰されてきている。
- しっかりした考えを持った人(選手)が伸びていく。
- いつの時代も変わらないものがあるのではないか。
- 規律はチームづくりの1つのポイントだ。
- 國母選手のようになる前に、周りがきちんと言うべきだった。
これに対して、中井川GMは
- 今季は選手と触れ合えるイベントの機会をもっと増やしたいと考えている
- たしかにブラジルの選手と比べると韓国の選手は多少安く済むが、いい選手を取ろうとすればやっぱり高くなる。それよりも、家族の分の旅費や契約で往復することなどを総合的に判断すると、韓国のほうがメリットがある。レオナルド選手はケガが多かったのが契約に至らなかった理由だ。チームの功労者だけに、残念な結果になった。
10.まとめ(感想)
海保理事長が3月末で退任することが決まり、モンテディオ山形の行く末を心配するファンやサポーターの人たちもいます。しかし、中井川GMのお話を聞きして「この人がいる限り、モンテディオ山形は間違いない」と確信しました。
まず「情熱」を持っています。話し方がとても上手で、「誰にでも分かりやすく、相手に合わせて、自分の考えを的確にアピールすることが出来るとても頭のいい人だ」という印象をもちました。「管理職とはこうあるべきだ」という、いい見本だと思います。もし中井川GMのお話をお聞きする機会がありましたら、みなさんもぜひ参加してみてください。
- (関連ページ)
- ■天童のニュース:モンテディオ山形
- http://www.ikechang.com/news/montedio.html
- ■天童のニュース:ボランティア・各種団体
- http://www.ikechang.com/news/news160.htm