山形新聞の連載企画「2012年の戦略 県内経営トップに聞く」に、天童市の造り酒屋の1つ・出羽桜酒造の仲野益美(なかの・ますみ)社長が登場しました。
- 東日本大震災後、日本酒業界を取り巻く環境は。
- 焼酎ブームに続くハイボール人気などで業界は危機的な状況だ。ただ震災を機に、故郷を思い出しながらしみじみ酌み交わす酒として日本酒が見直されたという面はある。日本人に一番近い酒であり、それを造っているわれわれがもっと自信と誇りを持ってアピールしていく必要がある。本県の技術レベルの高さはさまざまなコンクールで証明されており、業界が一丸となってその実力を発揮する年にしたい。
- 福島第1原発事故に伴う輸入規制も影響があったのでは。
- 昨年の輸出は、海外出荷量の約6割を占めるアメリカがあまり厳しい縛りをかけなかったため、全体では前年並みを維持できた。ただ、これからの有望市場である中国への輸出は、原発事故直後からストップした。温家宝首相が5月に本県を規制対象から除外するとした後も現場レベルでは解除されず、結局、実際に動き出したのは12月初めからだった。
- 海外での販路拡大をどう進めていくのか。
- やはり一番力を注いでいくべき市場は中国。昨年、途中でストップしてしまった北京、上海、大連、広州を含む中国12都市での展開を着実に進めていきたい。また、中国本土への足がかりとして重要な香港、そして韓国も伸ばしていくほか、新たにカナダやロシアとの取り引きも視野に入れている。当社の出荷量全体に占める輸出量の割合を、現在の5%から10%程度まで増やしていきたい。
- 昨年は、イギリス最古の王室御用達の高級ワインショップが初めて取り扱う日本酒のなかに出羽桜の2銘柄が採用された。
- とても名誉なこと。同時に、イギリスでも日本酒、日本料理が少しずつ定着している表れであり喜ばしい。その店で日本酒を扱い始めたことで、現地のソムリエが日本酒に関心を持ち始めていることもうれしい。嗜好品は文化を背負っていないと定着しない。今後の課題は、言葉は悪いが「教育」だろう。売っていただく方、買っていただく方に作り手の商品への思い、背景にある文化などを知ってもらい、それを広めてもらうことが大切だ。そのための一番のアプローチは、実際に山形に来てもらうこと。魅力を伝え産地イメージを上げていけば、山形が日本酒の聖地になり得るはずだ。
- 国内での戦略は。
- あくまでも基本は国内。これから大事になるのは「家飲み」をどう増やすかだ。今までは、飲食店やホテルなどの業務店に目が向きすぎていたかもしれない。ワインや焼酎のように、家庭でも飲まれるような仕掛けを考えていく必要がある。日本酒の良さは飲み比べの楽しさでもある。メーカーが力を合わせ、例えば酒蔵ラリーのような蔵や銘柄を身近に感じてもらう取り組みを進めたい。また、創業120周年の今年は、商品ラインアップを見直すとともに、新たな銘柄を投入していく。
- 自社の目標・展望を漢字1字で表すと…
- 「視」よくいわれる虫の目、鳥の目、魚の目。目線を低くしてお客様の立場に立つだけではなく、広い視野を持ち、潮の流れをつかむ的確な目が必要だ。さまざまな角度からの視点に立ち、判断を間違えないことがこの1年、大事になる。
(山形新聞2012年1月13日より)
- (関連ページ)
- ■天童のニュース:出羽桜酒造
- http://www.ikechang.com/news/dewazakura.html
- ■[2011.11.01] 出羽桜酒造の日本酒、王室御用達の高級ワイン店が入荷
- http://www.ikechang.com/news/2011/news20111101.html